Masukバスルームから走って出て来た蓮。 「ママ〜」 「こら蓮まだちゃんと拭けてないぞ」 追いかけて来た修。 ──!! 美樹は、思わず修の身体に唾を飲む。 綾が蓮を捕まえ──「蓮〜捕まえた! 修さんこそ、そんな格好で」 修は腰にバスタオルを巻き、鍛えられた胸板が丸見え、筋肉の間には雫が滴り落ち色気が漂っている。 「社長〜〜」 バスルームから森川が呼んでいる。 「おお〜今行く」 今度は由愛を抱っこして出て来た。 美樹は又修に釘付けになっていたが、 「あっ、綾私が……」と美樹が蓮の身体を拭いてくれたので、綾が由愛を抱っこした。 美樹は──「頭がびしょびしょだぞ〜」と蓮を笑わせながら、拭いてくれている。 森川がドライヤーを持って来てくれたので、蓮の頭を乾かしてくれている間に、美樹が蓮と歌を歌いながら楽しくパジャマを着せてくれた。
〈今から帰るね〉 綾は、修にメッセージを送ったが既読が付かない。 「外でお散歩でもしてるのかしら? それとも一緒にお昼寝でもしてる?」 美樹も微笑んでいると森川から、 〈出張お疲れ様、社長に呼ばれてお宅にお邪魔してる〉とメッセージが届いた。 「わ、本当に森川さんにお願いしたのね」 「どうせ暇だったから良かったんじゃない?」 「ごめんね、せっかくの休日に」 「ううん、大丈夫よ」 同じ職場同士だから、こういう時は理解があって助かる。 帰り道にあるお店に寄ってお土産を買うことに。 「これ可愛い」 綾は結局子どもたちの物ばかり選んでいる。 母親とは、離れていても自然に子どもの物ばかり選んでしまうようだ。 子どもたちに早く会いたくなったので、急いで帰ることに……。 ベビーシッターはお休みだが、そろそろお手伝いが夕飯の準備に来てくれる時間。 綾は──せっかくだから、美樹と森川にも一緒に夕飯を食べてもらうことにした。 帰りの車中、 綾は美樹に──「美樹たち子どもはどうするの?」
由愛が生まれて6ヶ月が過ぎた。 二人目だということもあって、綾も修も随分子育てに慣れて来た。 長男の蓮の時、修は…… 「ママ〜蓮がうんちしてるみたいだ」と必ずと言っていいほど、綾を呼んでいた。 綾は呆れた様子で、 「パパ! そろそろうんちでもオムツ交換してくれないかなあ?」 「だって、蓮が『ママが良いれしゅ〜』て言ってるから」 「そんなこと言えるわけないでしょ! ったく」 修は、いつも笑って誤魔化していた。 仕事に行っている間は、ベビーシッターに任せきりなので、帰って来たら二人で頑張ろうと話し合ったのに……。 でも、おしっこだけの時には交換してくれるようになったので大進歩だ。 しかし──「うわーっ!」と修の声がしたので、 慌てて綾が見ると……修は蓮におしっこを飛ばされて、それを両手で受け止めていた。 「ふっふふ、男の子はそうやって飛ばされるから気をつけてね」 「どうしてそれを先に言ってくれないの〜」 修が情け無い顔で綾を見ている。 「ふっ」 綾は──修も体験して初めて分かるだろうと思っていたのだ。 それからは、気をつけているようだ。 「やれば出来るじゃない」 褒めると嬉しそうな修──褒められて伸びるタイプのようだ。 「すご〜い! 上手〜」 綾は──それからは、やたらと修を褒めている。 ただ……いつ
────8ヶ月後 「綾!」 修が急いで病院に駆けつけたが…… 「もう生まれちゃった」 綾は笑っている。 二人目はお産の進行が早いと聞いていたが、思っていたより早かったようだ。 綾の腕には可愛い女の子が抱かれている。 「おお〜可愛い姫だな」 「蓮は私に似て来たけど、この子は修さんに似てるわね」 命名 由愛(ゆあ) 生まれる前から決めていた。 「どちらに似ても美男美女だよ」 「ふっ、自分で言う?」 笑っていると、又ゾロゾロと天埜家御一行様が由愛を一目見ようとやって来た。 ──どうしてそんなに耳が早いのよ 「綾さんご苦労様、まあ可愛いわね」 義母が言うと、 「おお、今度は可愛い姫だな、可愛いの〜わしも長生きしないとな」お祖父様が目を細めている。 義母は、家に来るたび、蓮にオモチャを持って来ている。 綾は修に──「オモチャはもう要らないの! 修さんから言ってくれない?」 「分かった」 そう言っても義母は、「可愛いからつい買ってしまうのよ」とお構いなしで買って来る。 綾のス
美樹が──「修さん!」と綾の話に驚いている。 でも、「可愛い〜」と言うので、絶対に森川さんには言っちゃダメよと口止めをする。 すると、 「綾」 「ん?」 「私、結婚する!」と美樹が薬指に嵌められた指輪を綾に見せた。 「わ、おめでとう〜」 森川が修と綾の姿をずっと近くで見て来て、可愛い息子も生まれたことで結婚は良いものだと思ったようで、美樹にプロポーズをしたのだ。 美樹も森川とならと思っていたので了承したのだと。 今後この二人の結婚生活も楽しみだ。 綾が修に伝えると──「ああ、森川から報告を受けた。良かったな」 「ええ、楽しみね」 ──── その後涼太は、すぐに希を認知したようだ。 何度も来日し、購入した別荘で過ごしていた。 時々ご両親も一緒に来られて、希に会いに行っていたようだ。 そして、ついに…… 希との同居が認められたようだ。 希のことを考えると、涼太の籍に入れた方が良いだろうということで、涼太は美奈に会いに行った。 美奈もその方が良いと判断し、「お願いします」と頭を下げたのだと。 涼太は美奈に──「ずっと待ってるから」そう言うと、美奈は涙を
修はソファーで綾の肩を抱きながら、綾に感謝の言葉を述べた。 「綾」 「ん?」 「本当にありがとう」 「!! 何? どうしたの?」 綾は驚き隣りから修の顔を見上げている。 そして、修は真剣な眼差しで──出産がどれほど大変なことなのかを自分なりの解釈で熱弁した。 もちろんそこには、綾が陣痛の時に握った修の腕の爪痕の話やスイカの話も盛り込み、出産は男には経験出来ないとても壮絶なことなのだと話した。 綾はポカンとしたが…… 「そうよ、ホントに痛いんだから」 「そうだね、俺の子を産んでくれて本当にありがとう」と言った。 「ふっ、俺の子じゃなくて俺たちの子ね」 「ああ、そうだ俺たちの子」 修があまりにも感謝しているので、ここぞとばかりに綾は──「修さん」 「ん?」 「子育ては、やっぱり両親揃って取り組む方が良いと思うのよ」 「もちろんそうだ!」 「そうよね〜なら子ども服を扱う天埜社の社長が子どものオムツ交換の仕方を知らないなんてことないわよね?」 ──!! まさか綾…… 綾はニヤッと笑いながら、 「修さ〜ん、蓮が起きたらオムツ交換やってみようか?」と促す。 「ハハッ、おお任せろ」 「ふっ」 まだ蓮が寝ていると思ってニコニコしていた修だが、突如──ブリブリッという音と共に、蓮が泣いた。
綾のシャンパングラスを握る指先には、 わずかな白さが滲んでいた。 今夜は彼女の婚約パーティー。 だが、婚約者の昌浩はすでに三十分も姿を消している。 周囲の名士たちの祝辞は、潮のように押し寄せては耳障りに響く。 そのとき── 本来なら"未来の花嫁“である彼女をしっかりと捉えているはずのスポットライトが、ふいに揺らぎ階段の奥へと落ちた。 綾は、目を細める。 光があまりにも強く、目の奥がじんと痛む。 スポットライトの下、逆光の中に立つひとつの影。 息を奪うほど鮮烈な、深紅のトレーン付きロングドレス。 生地一面に散りばめられた細かなクリスタルが、歩みに
──天埜修 視点── 「あっ! 危な────い!」 運転手の倉田が大声を上げる車内。 キキ────ッ 急ブレーキをかけた車は、急停車した。 「どうした?」 慌てながら心配そうに、倉田に声を掛ける天埜。 綺麗に着飾ったドレス姿の女性が突然、道路に飛び出して来て事故が起きた。 その場に倒れ込んだ女性に運転手が駆け寄り、謝罪しようとしたが、 突然意識を失ってしまった。 その後救急車が来て、その女性は病院へと運ばれて行った。 周りに居た人に、被害者の詳細を聴き調査する秘書の倉田。 彼女が平井綾だと分かった。 平井家と天埜グループは、直接の競合関係にはない
「昌浩、何を言ってるの? 明日は私たちの結婚式なのに……」 濡れた髪が顔に張り付き、綾はみっともない姿で震えていた。 「結婚式は取りやめだ」 昌浩は言った。 「美奈はもう僕の子を身ごもっている。長男が噂の中で生まれるわけにはいかない。今夜のことは──お前が先に彼女を突き落としたんだ。僕たちの間には……もう話すことはない」 ──何かの間違い。 綾がまだ問い詰めようとしていると、美奈が突然 「お腹が痛い」と言い出す。 昌浩は美奈を連れてその場を去る。 綾が追おうとすると、継母に強く平手打ちされ、倒れ込み酷くみっともない姿になる。 継母は上から綾の手首を
綾がプールへと落ちた刹那、意識は凍りつくような恐怖に襲われた。 十七歳のあの年の記憶の断片が激しく押し寄せる ──制御を失った車、砕け散るフロントガラス、最後の力で彼女を水面へと押し上げた母の手、そしてすべてを呑み込む果てしない青。 彼女は水が怖い。骨の髄まで染みついた恐怖。 それを、美奈は誰よりもよく知っている。 義妹とは言え、綾は本当の姉妹のようになろうと思っていた。 ──助けて! 恐怖で身体は強張り、必死にもがいても虚しく、水が口と鼻に流れ込み、視界は揺らめく水の光で白く滲む。 窒息しかけた絶望の中、揺れる水面越しに、ためらいなく飛び込んで来る人影が







